今日もスクラブで

カナダで過ごす私の日々。

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もう聞けない not too bad

新聞を読む気力が出てきた今日。 ふと目に入った死亡欄。 何故か気になり、見てみたら・・・。

入所者、IEさんの死亡記事が目に入りました。 私が彼に接したのは木曜の夜勤。 記事によると土曜日に亡くなったらしい。 つまり私の週末オフに彼は亡くなったんですねぇ。 この数週間、みるみる具合が悪くなり、長くは無いだろうな、と予感はしていました。

彼がまだ元気だったころ・・糖尿病で血糖のばらつきが激しい彼は私の「深夜勤務での要注意観察入所者」の一人でした。 夜間帯に急激に血糖が下がり、意識もうろうとなったり、ベッドの上でアクロバットのような動きをされた方なんですよ。 長く見ていると、言葉のやり取りで「あ、血糖が下がっているな」とわかるようになった私は真夜中に毎回IEさんに話しかけました。 普通、入所者さんが夜、寝ている場合、起こしたりはしないのですが、彼の場合は別です。夜中に低血糖、というのがパターン化していましたら、低血糖を事前に防ぐためにも、寝ているところに声をかけ確認していたのです。

彼の部屋のドアを開け、「I~,調子はどう?」 というと、壁に向かっていた寝ている身体を私のほうに向きなおし「悪くは無いよ」と答えるIさん。 「Are you sure~?」そして、私はIEさんの手を握ります。 その後、顔、首筋のあたりを触ります。 これは冷や汗をかいていないか(低血糖の兆候がないか)確かめるのです。 彼の言葉の抑揚で、血糖が低くなっているな、とわかる時もあるので、それを確認するために簡単な会話もします。 読書好きな方でしたので「今日は何を読んだの? ウィンストン・チャーチルの本? 今日の新聞で何か面白い記事はあった?」  このように、毎晩夜中にIEさんと軽いおしゃべりをするのですから、親しみがわきます。 彼は高学歴のインテリさんだったのですが、そういう類の方に良く見られる傲慢さ、横暴さんのかけらがちっとも無い、温厚な方でした。 素敵なシニア紳士、ってところでしょうか。 私が親しみを持っているのが自然に伝わるのでしょうね、IEさんも私のほっぺをツンツンしたり、手を撫でたりとよく愛情表現を良くしてくださいました。 

一度、私が居残りで退勤が遅くなったとき、廊下でIEさんを見かけました。 IEさんはピアノをたしなむ方だったのです。 私は、いつか彼にラウンジでピアノに触れさせてあげたいな、と考えていました。 しかし、私の勤務する時間帯では彼がピアノを弾くとしても迷惑になってしまう時間帯です。 だって真夜中~早朝だもんね。 たまたま私が一時間以上居残りしていたので、他の入所者さんは朝ごはんの準備で、みんな起きている時間帯。 チャンスは今だな、と思いました。 日中、彼一人では、ピアノのあるラウンジがたとえ同じフロア内にあったとしても、そこへ行く、というアイディアは持っていないだろうと思っていました。 (後で知ったのですが、多くのスタッフは彼がピアノを弾くとは知らなかったのです。) ラウンジにはピアノもあるし、本も沢山置いてあるので、IEさんの気に入る本が見つかるかもしれないな~と思いました。よし、今だ~とIEさんの車椅子を押してラウンジへ移動! ピアノの前に座るIEさん。 鍵盤の蓋を開け、IEさんの車椅子のペダルを外し、ピアノのペダルに足が触れるように調節しました。 鍵盤を見て、両腕を鍵盤におろそうとしたIEさんがニコッと笑いました。 「もう、ずいぶん弾いていないなぁ・・・」  そしてゆるやかに鍵盤を叩き始めたIEさん。


天国へ行ってしまったIEさん。 深夜、309号室でIEさんとのやり取りが、もう出来ないんだなぁ。 「not too bad 」という独特のいい方で私に答えるあの声も、もう聞けないんだなぁ。 さびしいなぁ。  ナースは「お気に入り」のクライエントを持ってはいけないのですが、IEさんは私の「お気に入り」でした、はい。 療養休暇あけ、私は多分、彼のベッドが空いているのを目にするでしょう、そしてセンチな気分になるでしょう。

長い間、不安定な血糖と戦ってきたIEさん、ご冥福を祈ります。

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猫とつつましく、北米で生活しています。

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